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Mariotトークセッション


内原 皆さん、こんにちは。
昨日、この建物が90歳の誕生日を迎えたそうで、今日は、私もこの会場に入ってどきどきしています。
少し味のある光の中で、今日はすてきな話ができればと思っています。

今回、遠藤照明さんからお声掛けをいただいて、私が堀木さん、風間さんにお願いしました。
本来ですと、私がコーディネーターという立場もあるかと思いますが、役不足ということもあって、風間さんにお願いをしています。
今日は、お二人とも大変お忙しいところ来ていただきまして、まずはお礼を申し上げます。


風間 こんばんは。風間純子です。
先程ご覧いただきましたTBSの「hito」という番組ですが、あれは残念ながら東京のみでの放送となります。
この番組は、「残すこと」をコンセプトに、様々な分野で活躍しておられる方々に私がインタビューをし、まとめ上げてつくっております。
その番組でお2人にお話を伺う機会がございましたご縁で、今日ここにいるのですが、「光育
(ヒカリイク)」というテーマで、どのようなお話が伺えるのか、私もすごく楽しみにしてまいりました。

まず、皆さんよくご存じだと思いますが、内原さんから簡単に自己紹介をよろしくお願いいたします。

内原 ライティングデザイナーの内原でございます。
我々のライティングデザイナーの領域も、社会的にもよく知られてきて、何をライティングデザイナーに任せればいいかという職能も少しずつ伝わりつつあると感じております。
その中で我々には今、社会的な条件も含めて様々な課題がありますが、光については非常に前向きな印象を皆さんに持って帰っていただきたいと思っています。

プロジェクトは、建築設計とともに光のコンセプトを構築し、建築の基本設計と同じようなステップで長い期間をかけて関わっています。
コンセプトからコンセンサスをつくり、最終的な実験までという流れの中が2年ぐらいです。
そういうことが今少しずつ成果となって、機能的な空間でも、もう少し人に何かを与えられるチャンスとして、光を使っていただく機会が増えているなと感じています。

最近は、特にエネルギーについて様々な問題があります。
そうした中で私は、オフィスから漏れる光は非常に手放せない光だと思っています。
実際には、中で業務をするための光ですが、そのほとんどが夜には夜景として出てくる。
そういった切り口も、いろいろな意味で、ただ装飾的な側面ではなく光を取り扱っていきたいと考えています。
さらに、住宅空間においては、一人一人が光の魅力に目覚めていただけるようにということを常に願っております。


風間 堀木さん、お願いします。

堀木 皆さん、こんばんは。堀木でございます。
先程映像と写真でもご紹介いただきましたが、私は、建築空間に向けた和紙の作品をつくらせていただいています。
一言で申しますと、私の仕事は、長靴から地下足袋までという仕事なのですが、空間を図面などで確認して、どういう和紙のデザインをするのかということから始まり、紙を漉(す)くための技術的なことや、構造的にどのように空間の中におさめていくのかということを考えて、実際に搬入現場に行き、地下足袋とヘルメット姿で搬入するというところまでを一貫して行っております。

特徴として、他のデザイナーさんとの大きな違いは、紙を漉く技術が根底にあるということです。
先程の映像でも、職人さんの技を見て私は和紙の世界に入ったという言葉がありましたが、まさに、紙を漉くという技術を新しくしていくことによって、新しい表現、新しいデザインを和紙と光で表現していくという取り組みです。

私の和紙は大きく分けて三つの漉き方があります。
一つは、職人さんたちが1500年の伝統の中で育んできた伝統の技術に新しいデザインを加え、コラボレーションをして紙を漉き上げていくという手法。
二つ目は、16m×6mまでの巨大な和紙が私の京都の工房でつくれるのですが、そういった巨大なものを現代のダイナミックな空間に沿うようにつくり上げていく手法。
もう一つは三次曲面、つまり立体的に紙を漉く手法です。

今日は関西の方が多いと思いますので、そごう百貨店の心斎橋本店の写真を持って参りました。
今ご覧いただいているこのリングだけでも3mありまして、実はこの作品を横から見ると、全く違う印象になります。
そごうさんから依頼を受けたときに、そごうのロゴマークが「蝶」をイメージしているものですので、蝶をモチーフにしてくださいと言われました。
もともとの建物が村野藤吾さんの設計で、アールヌーボー様式を取り入れたものでしたので、アールヌーボーの記憶も残してほしい。
館全体のテーマであるフェミニンということも念頭に置いてほしい。
そして、そごうが一度なくなりまして、再生して今回新しいビルを建てるということでしたので、再生、永遠性ということもテーマにしてほしいということでしたので、温かな光で空間を包み込んでいくことに、そういった四つのテーマを盛り込んだ作品をつくりました。

地下の吹き抜け空間は、蝶の卵をイメージしています。
これは職人さんと一緒に漉き上げる手法でできています。
先程ご覧いただいたものは、全長28mあります。
心斎橋筋と御堂筋のちょうど通り抜けになっているのですが、その間にこの作品が渡っているということになります。
これは蝶が羽を広げた姿のようにも見えますが、実は私のコンセプトとしては、2匹の蝶のさなぎを表現しています。
14mの巨大な和紙2枚を漉いたものです。

そして、最上階の吹き抜けに行きますと、オブジェが上からぶら下がっています。
これは立体的に漉くという手法でつくっています。
360度見えてしまうので、どこからランプの交換を行うのかなど、そういったことも大変でしたが、鉄骨ごと漉き込む。つまり、三次曲面であり、かつ、フレームごと紙の中に埋め込みながら漉き上げる手法をとっています。

このオブジェは下から見上げると、さなぎから生まれた4匹の命のように見えます。
同じオブジェを真横から見ますと、2匹の蝶が1本の枝にとまっているように見えます。
これを回り込んで正面から見ますと、1匹の蝶が羽ばたいて飛んでいくように見えます。
つまり、蝶の一生、命の永遠性、尊さみたいなものを建築の縦軸で表現して、そういったものに光を入れながら、百貨店を訪れる方たちをお迎えしています。

また、百貨店は回遊性が非常に大事ですので、このアートワークの役割として、人間が動く動線によって印象が変わる。
そして、上も見たいな、地下も行きたいなと思っていただけるような役割を、この光のアートに入れたわけです。
ここまで作ってオープンしたのですが、この最上階の吹き抜けは2層になっていまして、下階のレストランから見上げた場合、少し寂しいということになり、実はもう一匹この蝶の下に子供をぶら下げてくれと言われたのですが、それではコンセプトが崩れてしまうので、壁面に10本の柱のようなものを取り付けました。
先には、炎のようにも見えるし、つぼみのようにも見えるオブジェがあります。

これは何を表現しているかと申しますと、手と手を合わせた形、つまり祈りの形です。
そごうというのは、十合伊兵衛という方が呉服屋さんから始められた百貨店です。
ですから、10個の手と手を合わせた形、つまり祈りの形をここに配置することによって、蝶の一生を祈りの気持ちを持って見守るというようなコンセプトでつくり上げました。
実物はすごくスケール感がありますので、皆さん、機会があればそごうに寄っていただきたいと思います。

こういう祈りの気持ちであったり、空間に対するコンセプトを付加しながら、現代の和紙と照明を組み合わせて仕事をしております。



【 観察力・発想力を育てる 】

風間 内原さん、実際に堀木さんの作品はご覧になりましたか。
現場で見ると、本当に圧倒される感じですよね。


内原 これは恐らく多くの方が、堀木さんの作品と出会った瞬間に感じることだろうと思うのですが、我々は自分の意識の中で固定概念として持っていることがあまりにも多くて、それをばーんと取っ払ってくれたときの気持ちよさというか、しかも、それが現実としてあるものに出会っている感覚というのは、すごく臨場感があって、結構興奮しますよね。

風間 こうして見るのと、実際現場で見るのとは大分違うと思います。

さて、今回テーマは「光育(ヒカリイク)」ということで、新しく反応するような言葉だったこともあって、3人ですごく打ち合わせをしました。
まず、育てるというのは一体どういうことなのかという話を随分長くいたしました。
そのことに関しては堀木さんが一番白熱した...


堀木 いえ、違うんですよ。
私は、本当は育てるということが一番苦手なんです。
そもそもここに私が座っているいきさつというのを申し上げますと、内原さんからメールをいただきました。

堀木さん、11月18日は空いていますか?「光育(ヒカリイク)」というテーマでセッションがあるので出演してほしいとメールをいただいたのです。
私はそれに対して、18日は空いています、ただ、「光育
(ヒカリイク)」というテーマについては大の苦手ですと返信したのです。
そうすると、その次の返信が、お受けいただいてありがとうございますになっていまして(笑)。


光のテーマはいいのですが、育てるということに関しては苦手です。
そうは言いながらも私の場合は日本の伝統産業の世界にいますから、後継者を育てるとか、次世代を育てるということは、本当に日々その重要性を感じていますし、とても大切なことだと思っています。

ところが、現実を見てみますと、私たちの仕事は、今申し上げたように、長靴から地下足袋まで、紙を漉いて、それを現場搬入し、足場に登ってというところまですべてをやりますから、体力的にも精神的にも大変な仕事です。
スタッフの入れ替わりが激しかったり、なかなか若い人が続かないという中で、育てるということについては日々私の悩みの種なので、皆さんにどこまで育てるということをお話しできるかなということが不安なまま今日は来ています。

ただ、光ということに関しては、私の和紙の作品はすべて、太陽光線もそうですし、照明器具もそうですが、光の力をいただいて表現していくものですので、すごく大事なテーマだと思っています。

内原 私としては、堀木さんが苦手とおっしゃるのは、裏返すと、「育てる」ということに真正面に向かわれているからだと思っています。
後々そのあたりもぜひお聞きしたいです。


風間 でも堀木さんのお仕事には、人数が要りますよね。

堀木 そうなんですよ。10人がかりで最大16m×6mまで漉き上げます。
ただ、技術的には20mでも30mでも、場所さえあればできる技術です。


風間 どういう部分で何が足りなくて辞めていかれるのでしょうか?

堀木 全体的に言えることかもしれませんが、今日は「光育(ヒカリイク)」というテーマですので、そういうことと絡めて考えてみますと、私が日々思うのは、若い方たちは、観察力や発想力が非常に少ないように思っています。
自分で発見する、自分で考える、自分で知恵を絞るということがあまりない。
言われたことはやるし、教えられたことはちゃんとしてくれるのですが、自分から見つける、自分から発想する、想像する、そういうことが少ないように思います。

それを「光育(ヒカリイク)」ということにとらえて考え直してみますと、観察するというのは、例えばかすかな光の中でじっと目を凝らして見つめるとか、陰があるからこそじっと目を凝らして観察するとか、闇の向こうの気配を感じ取って、何があるのか想像をする。闇があってこそ、そういう想像をしたりするわけですが、小さい頃から蛍光灯で照らされていたり、現代の建築の中で陰とか闇と接することがなくなっているせいもあるのかもしれないなと思っています。

そう考えてみますと、昔は、日本家屋の暗い中で、障子越しの太陽の光で、例えば一日の時間帯によって太陽の光線が傾いていく、それによって光とか影が伸びたり縮んだりしていた。雲がかかったら薄くなったり、濃くなったりする。
季節によっては池のきらめきが映り込んだり、もみじの赤が映り込んできたり、部屋の中にいても、今日は満月だというのがわかったり。そういう中で、いろんな観察力も出たでしょうし、そこから発想するということも出たと思います。
今は蛍光灯で、昼間でも室内のほうが明るいくらいなので、影の移ろいさえなくなってしまっていますよね。
私は、昔の人が感じていた情緒、情感というのが、実はそういう移ろいとか時間の経過を感じる、じっくり観察したり発想したりというところから生まれていて、その情緒、情感がひいては日本の美学につながったり、それがまた日本の文化を生み出すことにつながっていったりしたのではないかと思うのです。


内原 先程おっしゃったような何かを感じ取るために見入るという精神性というのは、結構余裕がないとできない。
それ以前に、なかなかそれを自分で悟れないというか、感じられないのですが、やはり何かしらの自信がないといけない。
例えば堀木さんの横に立っているだけでも、自分の立ち姿すら気になってそわそわする。
日本人で、例えば我々のように建築のフィールドでライティングをやっていると、どうしても学ぶべくはヨーロッパやアメリカで、ヨーロッパへ旅行に行って夜景を見ると、感動します。
それは例えば街路灯でいうと、ナトリウム光源がずっと連なっていて温かいオレンジの光になっている光景で、どこかで我々は、そういったヨーロッパのビジュアルや印象にコンプレックスを感じています。

ところが、この時代に来て、何とヨーロッパでどんどん白い光が使われるようになってきた。
それは、経済的な要因やCO2の問題もありますが、そうやって見ると、なんだ、ヨーロッパの人も同じだなと思うのです。
ナトリウム光源というのはトンネルなどで使われていますが、今世界じゅうで一番高効率の光源です。
2〜3年のうちにLEDが抜くと言われてますが...


堀木 それは美しく使われているのですね。

内原 効率本位で、色は良くないです。オレンジのあかりですから。
ヨーロッパにそれが行き渡ったのは、どちらかというと経済的な側面からです。
それを客観的に見た日本人は、何てすてきだと思い込んで、ずっとそれが続くだろうと思っていたら、ヨーロッパのスピリッツのようなものは、あれっと思うように変わることもある。
これは、場合によってはファッションのように繰り返す可能性もある。

日本の光は今しっかり熟成してきている感じが私はします。
住宅に関しては、今、白熱灯が問題に取り沙汰されていますが、ちゃんとした癒しとして位置付けたいと思っているし、温かみのある住宅も増えています。
オフィスはそれとは逆に、すごくアグレッシブに、ポジシティブにしようと光を使い分けています。
日本はヨーロッパと同じようにならずに、自信を持つことが大切です。
物事をしっかりと見る背景に、我々自身も含めて自信を持ちたいと思っています。
今の話とぴたっと合わないかもしれないですが...



堀木 何に対して自信を持つかということですね。
日本独自のあかりとはどういうものなのか。
その独自性ですよね、自信を持たなくてはいけないところは。アイデンティティーということですね。


内原 そうです。
今まさにおっしゃった、我々は紡ぐように日本の歴史から過去を振り返って見る。
堀木さんのお話を聞くと、まさにその両方をやっておられる。
それでも常に自信がないとおっしゃいますが、では新しいことをやろうと前に踏み出すときは、何を骨組みにして進むのですか。
誰もやったことがないじゃないですか。


堀木 誰もやったことがないことというのは、自分にしかできないチャンスということです。
私、無理難題ということが大好きなんです。
だって、誰も今までやったことがなかったことだから。
私自身がこんなものをつくりたいと思って作品をつくっても、それは誰も望んでいないような作品になるケースは恐らく多い。
だけど、目の前に生きている人が私に向かって「こんなものをつくってほしい」ということは、今の時代の要望なのです。


内原 そのエネルギーというのは、瞬間的なこともあるかもしれませんが、時間の経緯とともに、誰かが後押ししている、あるいは誰かが育てた、そういう感覚はないですか。

堀木 そういう意味では私には常に、職人さんの原風景があります。
職人さんの姿を最初に見た衝撃がある。


内原 先程の映像でも、ご自身も一緒にされていましたよね。

堀木 そうです。
無理難題ということは、私たちにとっては、まず紙を漉く技術の進化につながる。
つまり、今までやったことのない漉き方をしないと対応ができないということですから、そこで技術開発が起こるわけです。開発というほど大層なものではないですが、とにかく新しいことをやろうとするのです。
それはすごく楽しいですね。
もちろん、納期が決まっていて、お金が決まっていて、大変なことではありますが、無理難題を言ってもらえるということ自身が、もう嬉しくて仕方がない。


内原 そうですかね(笑)
それはやはり堀木さんの誰も真似ができないパーソナリティーでしょうか。
でも、そのエネルギーを誰かに受け渡したいと思っているから、「人を育てるのは嫌だ」と言っているんだと思います。


堀木 例えば水のそのときの流れとか、繊維の状態などをよく見ていれば、新しい技術というのはそこから見つかるのに、見落としてしまう。
そういうことがすごく残念だなと思うのです。
もう少し目を凝らして見てみなさい、もう少し発想力を持って見てみなさいと言ったときに、見つかることはたくさんあると思っています。
本当はそういうことを教えたいのです。
技術云々というのは、それぞれその時代にみんなが考えたらいいことだと思うのですが、ものの発展の仕方とか考え方というのをスタッフには一番伝えたいんです。それが「育てる」ということだと思っています。


内原 これは私が勝手に思っていることですが、スタッフと同時に同じものを同じ目線で見ている瞬間を感じることがあります。
「あれだね」という最低限のコンセンサスの入り口があったときに、ふっと何かがあるんです。
例えば現場でライティングをするとき、一緒に歩いて同じ目線で見る。
そういうとき、私はどちらかというと指図をあまりしないタイプなので、自分で直しにいこうとするのですが、すすっと先に行って、私が思っている通りに照明器具の向きを変えるんです。