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Mariotトークセッション


【 就寝前の低色温度の光は、メラトニンや体温への影響は小さく、睡眠への影響も小さい 】

森田 福岡女子大学の森田です。

まず最初に、私たちの女子大学の人間環境学部でどのような研究をやっているかということについて少しご紹介したいと思います。
私がおりますのは生活環境学科の住環境学研究室です。
そちらのほうでは、住まいの空間の大きさ・形状、あるいは光・照明などの視環境要素、目から得る情報を人がどのように感じてどのように評価するのか、このような過程を研究して、生活環境の計画に反映したいと考えています。
子供から高齢者までを対象にしています。
大きなテーマは二つです。
一つは、住まいの中で行われる種々の生活行為、あるいはシーンのときに、人がどのような要求を持つのか、どのような目的を持つのかということを抽出して整理していきたい。
もう一つのテーマは、先ほどの安河内さんの話にありましたように、私たちの生活の中で人工光源を使用していることの問題を生体リズムの視点から考えていきたいとしています。
今日は、この二つ目のテーマについてお話をしたいと思います。

最初に一つ、少し前に行った実験の結果を紹介します。
これは、被験者に人工の環境をつくった部屋の中に2泊3日生活してもらう実験です。
1日目は、朝、その実験室に入りまして、2500ルクスの明るさの中で夕方6時まで過ごす。被験者の方は時計を外してその部屋の中に入っていますので、実際は、これが6時であるかどうかということは知りません。
その後50ルクスの環境にして、眠くなったら寝てくださいと言います。
翌朝、目が覚めた後から眠くなるまでが実験期間です。
3日目も同じで、この間、被験者は何時に起きたか、何時に寝たか、外は晴れているのか、雨なのか全くわかりません。
この時、被験者にやって頂くのは、実験期間中の15分に1回、光源ボックスの前に座りまして、自分が最も良いと思う光になるように、光の明るさと色温度をコントロールボックスで調節してもらうという実験です。
人は全く外部と切り離されて、ある部屋の中にじっといるとき、一体どのような光、どのような明るさ、どのような色を選択するのか。本当の心あるいは体の欲求として、どういう光を一日求めているのかということを知りたいということです。
どのような光を設定したかということを測定して記録していくという実験です。
沢山の方を実験したのですが、代表的な1人の結果をここに示します。
上が照度、下が色温度です。ここが2日目、ここが3日目です。
この人は朝7時ごろに目が覚めて光源ボックスの前に座りました。
その後、徐々により明るい、より高色温度の光を選択していきました。
このグラフは、4000ルクス、5000ケルビンで頭打ちになっていますが、これは光源ボックスの装置上の問題で、ここが上限になってしまっています。
本来、もっと設備的に設定しておれば、より明るい光、より高色温度の光を恐らく選択したのではないかと思われます。
一方、午後から夕方にかけては徐々に暗く、低色温度の光を選択していきました。
この被験者は10時ぐらいに眠くなって寝てしまっています。
次の日6時に起きて、同じように、より高照度、より高色温度の光を選択していったということです。

人は、外部の情報がないとき、全く自分の心と体の思いで選択する光は、朝はより高照度・高色温度、午後から夕方、夜にかけてはより低照度・低色温度の光を選択すると推測されます。
これはまるで自然な朝日から日中の光、夕日、そのものを選択しているように見えます。
私たちの体の中のリズムとしては、先程の話にもありましたように、日中はメラトニンというホルモンの分泌量が少なく、夕方から夜間にかけて増大し、翌朝減っていきます。
これに対応するように、体の体温も、朝から上昇していき、夕方にかけて低下し、深夜に最低体温を迎えて、明け方また上昇していく、このような体のリズムを持っています。
このような約24時間の生体リズム、サーカディアンリズムと言われるものは、私たちの身の回りの自然光、あるいは人工照明と非常に強く密接に関係を持っているだろうと考えられます。

例えば朝、体温が上昇していく過程のときに、全く光を浴びないコントロールをし、低色温度の光、高色温度の光を浴びたときにどのように体温が変わるのかということを比較したのがこの図です。
明らかに、高色温度の光を浴びたときのほうがよりスムーズに体温が上昇しています。
よりスムーズに体温が上昇するということは、その後の日中の活動にむけた体をつくるということになります。
先程の安河内さんの言葉でいうと、より体を次の行動に対してサポートするような光であると考えられるということです。

今度は、日中にかけて、どのような光を受けたときに変化が見られるかということを比較した図です。
実線と点線で朝から次の日の朝までを示しています。
日中に低照度の光の環境で過ごしたときを点線で、日中を高照度で過ごしたときの体温の変化を実線で示しています。
この二つの線を見比べますと、昼に高照度の光を経験したときのほうが、夜間により深く体温が下がっていることがわかります。
日中に明るい光を経験することが、その日の夜の体温の低下により大きな影響をもたらす。
より体温が下がるということは、恐らく、この時点で良質な睡眠が確保されているだろうと考えられます。

また、夜どのような光を受けるのかということも影響があります。
これは先ほど安河内さんの話の中にもありましたが、夜間に全く光を浴びないとき、赤、グリーン、ブルーのカラーの色光を浴びたとき、高色温度の光を浴びたとき、低色温度の光を浴びたときのメラトニンのホルモンの分泌変化と体温の変化を示しています。
赤、グリーン、ブルーは実際的な光ではないので、今日は省略しますが、高色温度と低色温度の光の二つを比べていただきますと、高色温度のときのほうが、メラトニン、体温への大きな影響が見られます。
すなわち、就寝前に高色温度の光の環境下で過ごした場合、その後のメラトニンのホルモンあるいは体温への影響が非常に大きい。
そのことは恐らく睡眠の質に大きな影響をもたらしていると考えられます。
一方、低色温度の光は、メラトニンや体温への影響は小さく、睡眠への影響も小さいと考えられます。

これらのことから、夜間の高色温度の光、朝の高色温度の光はいずれもメラトニンの分泌を抑制し、いずれも体温を上昇させるあるいは低下を抑える、そのような影響を持っていることがわかります。
このようなことが、一番最初に一つの実験例としてお話ししました、人はどのような光を朝から夜にかけて選択していくのかという選択行動に影響しているだろうと思われます。
つまり、好みの光を選択するということは、このようなことが恐らくバックにあって、よりよい光、そのとき必要な光を選択して設定したと考えることができます。

そこで私たちは、このような考え方で種々の研究、実験を行っています。
日常の光は、人の体のリズム、体温とかメラトニンというホルモンに強く影響している。
そこで、いつ、どのような光をどの程度経験するのかということが非常に大事で、この視点から、朝の光なのか、昼の光なのか、夜の光なのか、光の色温度はどうなのか、波長分布はどうなのか、光の照度はどの程度なのかということを考えながら、人の体の様子と関係性を見ていく必要があると考えています。

そのときの考え方としては、生体リズムの振幅、山と谷が大きく確保されること、そして、位相、先ほどありましたが、いつ山なのか、いつ谷なのかということが社会的時間と合致していることが、心と体の健康という面から見ると大切ではないかと考えています。


【 メラトニンに対する感度の分光分布曲線と青色LED分光分布曲線がほとんど合致している 】

森田 最後に一つお話ししたいことがあります。
このような体のリズムに対する光のことをお話してきましたが、これには、目の中にある特定のある種の受光器が働いているだろうと考えられています。
その受光器がどのような感度分布を持っているのかということについて最近報告されたものがあります。
横軸に波長、縦軸にその感度です。
いろいろな短波長の光に対してどの程度感度を持っているのかということを実験でプロットして、こういう感度分布の曲線が報告されています。
これによると、464ナノメートルのところの青色の光が一番感度が高いと報告されています。
このことは、今までお話ししてきた話と一応合致するわけですけれども、ここで最後にお話したいのはLEDの光のことです。

最近は、私たちの生活の中、住宅の中にLEDの照明が入ってこようとしています。
代表的なLEDの白の光ですが、いろいろやり方があると思います。
ブルーのLEDに蛍光体で黄色を発色させてブルーと黄色で白をつくるものが多く行われていると思います。
このときのブルーと、黄色から緑のLEDの分光分布がカラーで示したものです。
そこに青の実線を重ねているのですが、これが先程お話しました非視覚効果、メラトニンに対する感度の分光分布曲線です。
青のLEDの発色の分光とこれがほとんど合致していることに注目していただきたいと思います。
LEDの白の照明がどんどんと普段の生活に入ってくることは避けられないと思うのですが、このことに注目して、いつ、どのような光を使うのか、その使い方を考えていきたいと思っております。そのことを皆さんにもお伝えしたいと思っているということです。

これで私のお話を終わりにします。どうもありがとうございます。


【 光で価値観が変わる 】

松下 ありがとうございました。
今までのMARIOT EVENTの照明デザインの領域を超えて、今回は実にアカデミックなテーマだと思います。
単純に、照明デザインということだけではなく、それが及ぼしている影響だとか、私どもが実際に、こうだろうという経験値でデザインをしてきたことに理由があるんじゃないかということをずっと考えておりました。
私も、目から情報を得て、それを伝達する光の能力というのは、実は私たち本来の体が持っている要素が行っているのではないかということを考えておりましたので、今日は私が一番楽しみにしていたセッションでもあります。

先程の安河内さんのお話を聞いてちょっと思い出したんですけれど、オーストラリアの友達がレストランを経営していまして、日本人の観光客が来ると「こんなに暗いところじゃ食べられない」、オーストラリア人が来ますと「こんな明るいと食べられない」とおっしゃるんですね。
私はいつも、これは狩猟民族と農耕民族の違いかと思っていたのですが、もっともっと古いお話ですね。
もともと私たちが人間であって、初めて出てきたときからその違いを持っているということですか。


安河内 オーストラリア人と日本人の違いですか。

松下 そうですね。海外で、光の感覚って変わるものですか。

安河内 もともと持っているというよりも、むしろ文化の違いだろうと考えています。
日本人がなぜこんなに明るいのが好きかというのはよくわからないんですけれども、一説には、戦時中、敵が攻めてくるときに照明を落とさなきゃいけないという時代に裸電球が普及していて、戦後、蛍光灯が出てきて、より明るい光になって、もっともっと明るいというところにすごくあこがれたのではないかという話があるんですが、これは本当かどうかわかりません。
しかし、文化の違いが非常に大きい部分があるんじゃないかなという感じは持っています。


松下 私もそんな気がします。
国によって全然違う感覚というのがあるので、人間本来が持つ力だけじゃなくて、文化性とか、そういった背景によって随分変わってくるということですね。


安河内 そういう意味では、昼光色がたくさん売れて電球色があまり普及しない原因も、非常に裸電球っぽい雰囲気もありますし、今でこそ白熱灯はすごくいい光という認識があるんですが、一時は電球色に対する積極性がなかったと考えてられます。

松下 ありがとうございます。
森田さんとは、以前、UR(都市再生機構)さんから依頼を受けましてご一緒に研究をしたことがございます。
イギリスのグラスゴーで青色の街灯を使ったことによって犯罪率が低下したということが新聞発表になった途端に、各地方自治体が青色の蛍光灯を街灯に使い始めました。
私ども、美しい夜間景観をといって、一生懸命ガイドラインをつくったりいろいろしているのに、犯罪がおさまると聞いただけであっという間に町じゅうがブルーになるんです。
それが本当に正しいかどうかということを、URさんの八王子の研究所でご一緒に一度研究したことがありました。
学生さんにいろんな色を当てて、心電図をとられて、それによって心が休まるとか、休まらないとか、そういう実験をご一緒したことがありましたけれど、あのときの結果からいくと効果がなかったと。


森田 あまり明確な差はないということであったと思います。
むしろ、私はどちらかというと、防犯の照明ということは夜間の照明になると思うんですが、青っぽい光、短波長が多く含まれている光は、先ほどもお話ししましたように、体温とかメラトニンに大きな影響を与えて、本来体温が下がっていかねばならない夜間、本来メラトニンが上昇していかなければならない夜間に、それを阻害する悪影響のほうが大きくあるんじゃないかなと思っています。


松下 ということです。
今日もし行政の方がいらっしゃいましたら、青色の街灯にしないで、町はそれでも安全であるということがわかるような気がします。
それより今はやっぱり演色性ですね。
物がきちんと見える。赤い車が逃げましたとか、茶色の人が立っていましたというふうに色がきちんとわかる街灯のほうが美しい夜間景観であるような気がします。

光で価値観が変わるというお話で、幾つか写真を用意してきたんですが、先ほど私がお話しした売り上げの上がるお店をいかにつくるかというとき、当てる光によって価格帯まで変わってしまうという例をお見せしたいと思います。
例えば左側のバカラのグラスと右側では値段が違って見えます。
光を当てることによって、いかに美しい光で見せるかによって、価格が変わる、物の価値が変わるということがわかるような気がします。
それから左と右、微妙なのですが、先程おっしゃっていた色温度、ケルビンが違うことによって、美味しそうに見えたり、食べやすそうに見えたり、本来の色が浮かび上がったりします。
私どもは店舗設計を始めるとき、色温度を決めることから始めます。
色温度を決めるとは、ここは少し高級感があるとか、安っぽく見えるとか、そういった効果をとっていくのです。
また、光の当たり方によって物の感情が変わると思います。
怖いとか、楽しそうとか、美しく見えるとか、そういったものが光の当たる方向によって随分変わってくると思っています。

先ほど森田さんがLEDのお話をなさいましたけれども、私たち照明デザイナーが現在多く使っている照明の光源は、太陽光をお手本にしたハロゲンとか白熱灯といった温度放射光源、それから、蛍光灯とかHIDランプといった放電発光光源です。
それに加えて、21世紀に入りまして電解発光光源が開発されたわけです。
それが発光ダイオード、LEDのフルカラーであったり、白色であったり、それからエレクトロルミネッセンスなど、照明の新しい技術が出てきました。

これは、私どもが今までアナログに使っていた光がデジタルになり、いろんなものからサインをもらうことが可能になった、新しい画期的な時代になったということだと思います。
ただ、そんな時代になったときに、ケアして使わないといけないのではないかと思っています。
先ほど森田さんからも、白色には見えるけれども、実は白色ではなくて、私たちが使っているランプは、色々な波長によって成り立っているということがあったような気がします。

これはあるビルの一例ですけれども、LEDボードになっていまして、突然画像が流れると、ビル全体が映像に包まれてしまう。
これもデジタル化した照明の行き着く先です。
今から先は、照明も、光も、映像も、サインも、すべて一体化している上に、こういった建築材料にもなっているということは不思議なことではない、これが可能になったということです。

先ほど売れる店づくりというお話を少しさせていただきましたが、最近、美味しく物を見せるためにどうしたらいいか研究を重ねた結果、スーパーマーケット等でも、私どもが照明計画をしたところは蛍光灯を1本も使っておりません。
色々な照明を駆使することによって、そのお店の売り上げが断然上がっていくという光の効果が立証できました。
私にとっての臨床実験というのは、実際に売り上げが上がるということが一番ですので、研究とはちょっと違うんですけれども、照明効果一つとっても売り上げを左右するぐらいの影響が出てくるということだと思います。
でも心のどこかでは、先ほど安河内さんは文化の違いではないかとおっしゃいましたけれども、私たちが美しいと思う風景、夕日に照らされる仏閣の影、こういったものが私たちにとっては美しいと感じる光の色合いではないかなと思います。