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松下 皆さん、こんばんは。ようこそ「光育」シンポジウムにお越しいただきました。 |
安河内 九州大学の芸術工学研究院、大橋にあるキャンパスにおります安河内です。 どうぞよろしくお願いいたします。今日の私のお話は、人は人工照明にきちんと適応できているかということです。 もちろん我々は自然の光には適応できているわけですけれども、自然の光に比べますと、人工照明は光の波長構成が全く違っております。 そういう中で適応できているかということです。 つまり、どういう光が私たちの体に良くて、どういう光が良くないのか、まずそこを知りたいわけです。 そのためには、良し悪しを考える何か基準が必要です。 そういった基準について、私たちは、人間をどうとらえるか、特に人と環境の関わりの中で、適応という観点からその基準を考えていこうとしています。 私たちの身の回りは、科学技術の発展によって大変便利で快適な生活環境になっています。 果たして、快適であれば、便利であれば、何でもいいのかということをきちんと検証していこうというのが私たちの基本的な態度です。 そこで今、私たちは体に感じない余分な緊張が体に生じている、そういうことがあるという事に注目しています。 体に感じれば、良いもの、悪いものをそこで区別して行動すればいいわけですけれども、体に感じないわけですから、これはどうしようもありません。 では、なぜ余分な緊張がそういう状況で起きるのか。 これを考えるには、まず人類の生い立ちを振り返ってみたいと思います。 よく凶悪犯人が捕まりますと、新聞・テレビで報道されますのは、その犯人がどこで生まれ、どこで育って、どういう環境で、中学校の成績がどうでとか、そういう過去を振り返ることで、その人の人となりを知ろうとするわけですが、人間を知ろうとしますと、一つの方法としては、人類の生い立ちを振り返ることになります。 大体500万年の人類の歴史があると言われていますが、これを100メートルのスケールに置きかえてみます。 ゼロが現代で、100メートル手前が500万年前ということになります。 私たちはこの500万年の間に、進化の中で四つのステージを踏んで現代といいますか、今の私たちのステージにいます。 少し余談ですが、最初の猿人という種は非常に長く、現代から約20メートル手前まで存在していました。その後、北京原人で知られる原人、ネアンデルタールで知られる旧人、そして新人というステージが今となります。 見てみますと、猿人の次の新しいタイプの原人は、猿人の時代に比べるとわずか3分の1ぐらいしか存在していない。次の旧人は、原人の時代に比べるとわずか5分の1しか存在していない。 そういう過去の経緯を見ますと、私たちはまだ進化の途上ですので、次の新しいタイプの人類がいつ出てもおかしくないような状況にいるということも一方では言えます。 さて、今のような科学技術の世の中、こういう近代的な文明をつくった最初のきっかけは農業の発明と言われているわけですが、古く見積もっても1万年前です。 では残りの499万年は何かといいますと、もうおわかりのように狩猟採集時代の生活環境です。 生物は一般に環境に適応できたものだけが生き残るわけで、私たちは生き残るためにどういう環境に適応してきたかといいますと、我々の歴史の99.8%を占める狩猟採集時代の生活環境に適応してきたと言えるわけです。 私たちはこの時代に適応したはずであって、残りの0.2%で生活環境は全く大きく変わった。0.2%といっても1万年ですから、今のようなコンピュータ社会、あるいは情報社会と言われるような時代の環境は、たかだか50年ぐらいで急に変わってきたわけです。 そういう意味では、このスケールでいうと、わずか1ミリ程の瞬間的な変化になります。私たちは99.8%の時代に適応してきて、現代にそのまま来ているわけですから、今の環境に本当に適応出来ているかどうかをきちんと検証するという態度が大きなポイントになります。 まとめますと、私たちの脳は、今の環境を当たり前に受けとめて、なおかつ「快」を求めます。 今日は時間がありませんので、この辺の説明は割愛させて頂きますが、私たちの脳には「快」を感じる部位が幾つかあります。 当然、「不快」を感じる部位もあります。私たちの仲間の猿は200種いますが、この中で最も人間が「快」を感じる部位が大きいと言われています。 これはもちろん体の大きさを補正しての比較です。 従いまして、私たちは、生まれながらに「快」を求めてやまない脳の構造を持ってこの世に出ているということが言えるわけです。 楽をしたい、好きなことをしたいというのは、そういう意味ではごく自然な本能的な反応と言えます。 つまり、私たちは「快」を求めるために、科学技術をさらに発達させてより快適にしようという欲求が当然起きるわけです。 しかし一方、我々の体そのものは、先ほど申し上げましたように、いわゆる狩猟採集時代の環境に適応しているものですから、自分が勝手につくり変えてはいるんですが、全く違う環境の中に身を置いていることになります。 その中できちんと反応出来ているか、つまり脳が考えている、あるいは欲求していることに我々の体がきちんとついていけているかどうか、そこのところのバランスを評価する必要がある。 もしこのバランスが崩れていたらどういうことが起きるだろうか。 少なくとも体に余分な緊張が生じているはずだということを考えているわけです。 脳の欲求に対して、体に余分な緊張状態をつくらないような環境、技術の使い方、そのようなことを考えていく必要があるという考え方です。 |
![]() 安河内 さて今から光の話です。 では光に対してはどうでしょうか。 冒頭で申し上げましたように、自然の光に対しては我々は適応しているはずですけれども、電球の誕生は1879年ですから、人工照明はたかだか130年程、500万年に比べると本当にまたたく間の時間でしかありません。 ところが昼はオフィスで、夜はもちろん家の中で、私たちの一日の大半は人工照明にさらされています。 そして研究分野でも、人工照明に関する光、いわゆる見える光がこれまでの大半のテーマでした。 光の明るさ・色合い、そういった視覚的に捉えられる光の研究が多かったわけです。 しかし、ごく最近になりまして、視覚に依らない生理的な影響があるということがわかってきました。 つまり、意識には捉えられない変化が、光によって体に生じていることがだんだんわかってきたわけです。これを非視覚的影響と呼んでいます。 今日は、蛍光灯を中心に、蛍光灯の色温度、電球色・昼光色の違いで我々の体にどのような影響があるのかといったところをお話しいたします。 先ほど申しました余分な緊張というところに注目してのお話です。 非視覚的影響は、なかなかイメージとしてわかりにくいと思いますが、このスライドはネズミ(ラット)の脳です。 目に光が当たると電気信号にかわって、脳に信号が送られ、通常はこういった視覚野に送られ物が見えるという機能が発揮されるわけですが、最近になりまして、視覚野とは全然別に光の刺激が行くルートがあることがわかってきました。 ルートの途中、例えばSCNと書いてある部分は体内時計に関係するところです。 PVNというのは視床下部に位置するもので自律神経や内分泌に関係するところ、RFというところは脳の覚醒水準、脳の活性度あるいは筋肉の緊張度に関係するところです。 こういった我々の体のさまざまな機能に光が影響を与える可能性があるということが、この図からも想像がつきますし、私どもここ10数年の光の研究の中で、光によってこういった機能がすべて変化するということをデータで確かめてきております。 ![]() 2例ほど簡単に例を紹介いたします。 これは脳波をはかりまして、正確には事象関連電位というものですが、大脳の活性度いわゆる覚醒水準を見たものです。 電球色のもとではかった覚醒水準よりも、青っぽい光の昼光色のもとではかった覚醒水準が統計的に高い結果が出ております。 通常、脳の活性度が高いほうが作業が進むと考えます。 しかし、同時にはかった電球色の反応時間、昼光色の反応時間では、脳の活性度が高い昼光色のほうが鈍くなっている。活性度が高いほうが反応が落ちている。 これは普通ではちょっと考えにくい現象です。 それを考えるために、横軸に覚醒水準、縦軸に作業の効率をとってみました。 例えば覚醒水準が最も低いときは寝ているときですね。目が覚めてだんだん頭がすっきりしてくると覚醒が上がってきますし、そういうときに作業をすると作業効率が上がる。 だから、こういう右上がりのラインが引けるわけですが、覚醒が上がれば上がるほど右上がりになっていくかというとそうではなく、あるところから逆に落ちてくる。 ここの領域は、皆さん経験があると思うのですが、カリカリ怒ったり、いらいらしているときは脳は興奮状態ですから、覚醒はすごく高いのですが、作業は手につかない。仕事が手につかない、逆に落ちてくる。 ここはこういう領域であるということです。そういう意味で、青っぽい光は、こんなに極端ではないのですが、この領域のごく始めの部分、意識では捉えられないが、活性度は上がっているけれども作業は落ちる、そういうところに位置していると我々は考えているわけです。 ですから青っぽい昼光色の光は、脳の覚醒水準に対しては余分な緊張を与えているという考え方です。 他に心電図をはかりまして、心臓を支配する自律神経の緊張度をはかる方法がございます。 その指標をグラフにしてみますと、青っぽい光のもとでは、白っぽい昼白色、電球色に比べまして、自律神経系にも余分な緊張があるということが一つ出てきております。 |
安河内 少し話が変わります。 この後のトークセッションでもよく出てきますメラトニンというホルモンの説明をしておきたいと思います。 メラトニンは、ホルモンの中で最も光の影響を受けやすいホルモンです。 通常、日中は、自然の光によりましてメラトニンの分泌が抑えられており、夜、暗くなって光がなくなりますとぐーっと分泌するという特徴的なリズムを持っているホルモンです。 ![]() ところが当然、昼間ほどの強い光ではありませんが、夜も人工照明(特に日本人は明るい光が好きですが)のもとで暮らしています。 そういう明るい照明ではメラトニンの分泌が妨げられます。 明るいほど妨げが強く、また電球色と比べますと、昼光色・青っぽい光のほうが妨げる力が強いことがわかっています。 このようなメラトニンの分泌抑制がありますと、どういうことが起きるかといいますと、私たちの実験では睡眠の質が落ちます。 睡眠中の脳波をはかると、ステージ4が一番深い睡眠となるのですが、メラトニン抑制が大きいとそこのトータルの時間が少なくなる。また、睡眠のリズムがずれます。 つまり、寝つくまでの時間が遅くなっていくということです。動物実験では、メラトニンは発がんを抑える、あるいはがんになった後のがん細胞の増殖を抑えるという結果も出ております。 そういうことを考えていきますと、これから照明の光源も新しい技術によりどんどん出てくると思うのですが、どういう光源を開発していったら良いか、またはそれをどういう場面で、どういうタイミングで使ったら良いかということを真剣に考えていく必要があると考えます。 最近、メラトニンがどういう作用を持つかということがだんだんわかってきまして、例えば生体リズムを調整する効果がある、あるいは老化防止、抗酸化作用はビタミンCやEの60倍から70倍の効果があるということを、アメリカの有名なライターという博士が言っておられます。 また、悪玉コレステロールを減少させるとか、ストレスに関しては抗不安作用、抗うつ作用、うつや不安の程度をやわらげます。 そういう意味ではリラクゼーション効果もあるということです。 それから加齢による内臓脂肪の蓄積を抑制する、加齢による骨粗鬆症の程度を抑える、加齢によるぼけの改善をする。 そういったいろんなところでの作用がだんだん報告されてきております。 またメラトニンは、系統発生的に、まだ陸上動物がいない海の時代からずっと存在していることもわかっており、そういう意味では、生命調節に関わる非常に重要な役割をしているのではないかと言われています。 このメラトニンが光によって抑えられる。 夜、本来出るべきタイミングに、人工照明によって抑えられる。 照明を点けないわけにはいきませんので、どういう光だったら害の部分が小さくなるか。 我々は今、そういったところを研究しており、この後のトークセッションでもそのあたりの話が出来ればと思っています。 ![]() 私たちは一日の時間を色々な空間で過ごしています。 照明といいますと、字のごとく明るく照らすですから、暗いところを照らせばいい、私も昔はそういう単純な考えでいたのですが、先程も申し上げましたように、目に見える見えないということと関係なく体に生じる変化がある。 しかも意識では捉えらえられない変化がある。 例えばオフィスでは、作業を上げるために、やや緊張ぎみの空間が必要ですし、お家に帰って、疲れてほっと一息つきたいリビングでは、当然リラックスしたい空間が必要です。 眠るときは、リラックスする機能が求められますが、朝はすきっと起きるためにやや緊張ぎみの空間でありたい。このように、一日いろいろな空間で過ごしますが、それぞれの空間にはそれぞれ必要な機能があるわけです。 そういった機能をサポートするような照明をレイアウトしていくことがこれからは非常に大事だろうと思います。 ただ照らして明るければ良いというのではなく、きちんとその効果を知った上でサポートする、そういった光のレイアウトが今後重要になっていくだろうということです。 簡単ですが、終わります。 松下 ありがとうございました。 では引き続きまして、森田さんに、研究内容と自己紹介を兼ねて発表をお願いいたします。 |