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![]() 戸恒 先程藤本さんがお話された情緒障害児短期治療施設です。 こちらは本邦初公開の写真です。...と言いますのも、実は昨日撮ってきたんです。 藤本さんもこの写真初めて見ますよね。 周りは雪だらけでした。 ここは、建物が白いじゃないですか。昨日も雪に埋もれてこう白くなっていたんですが、何か雪と白というのが関係あるのかなあとか思ったんですよね。 どうですか、その辺は。 藤本 設計しているときは迂闊にもそこはあんまり考えてなかったんですよね。 僕も実は昨日の夜北海道入りし、今朝伊達でこの建物に寄ってきました。 北海道の方は共感してもらえると思うんですけれど、冬場に地面が白くて、よくわからないけれどぼわっとこう風景が明るいというのは何か自分の中に原風景としてあるんですよね。 僕の出身の旭川は、本当に全部、地球の表面が白くなっているという状態になるんです。 しかし、この状況は初めて見ました(笑)。 すごくいいですね。僕は正直ここまで意識してはいなかったです。 戸恒 ちょうどこれは夕暮れの我々の業界ではよく言うブルーモーメントの時間です。 一番写真がきれいに見える時間なんですが、空の青さが雪を拾いますよね。 青白く明るくなっていて、当然雪で白くて建物も真っ白になる。 何か溶け込んでいく感じというのが非常におもしろいなと。 当然、外光が明るい時間は白い面というのが明るくて、どちらかというと中のほうが暗く見えるんですが、それがすーっと逆転していく感じというのが、特に雪とセットになることによって非常に溶け込んでいくのを感じました。 ![]() これが入り口側ですよね。 自分が担当したのに、実は夜にちゃんと見てなかった(笑)。 写真撮っていて、非常にこれは建築としてきれいだなぁ...と思っていました。 例えばこれ、手前にある黒い塊には照明はまったく当たってないんですね。 奥にある白い箱から漏れた光がすーっと当たっていることによって、光っている白い箱と、光ってない黒い箱がある。 その陰影というのが一体となって美しい景色をつくるんですね。 光というのは、実は光が当たってないのも光だなあというのを、このとき撮りながら考えました。 ![]() 中に入ります。これは食堂の写真ですね。 藤本さんなんかはやっぱり建築を純粋に見せたいんで写真撮るときに照明つけてくれないんですけれども、実はこういうふうに暗くなるとついております。 設計当時を思い起こすと、まずはじめ一番衝撃を受けたのは、天井がない状態で模型が置いてあったんですね。 最初は何か白い四角い箱の住宅をつくっていて、それをスタディしていて片づける途中なのかなと思ったんですよ。 白い四角い箱がいっぱい机にあったので。それで「何か、いっぱいつくっていますねえ」と言ったら、「いや、これが全部建築ですよ」と言われたのをよく覚えています。 上をこうルーバーで覆っているんだという説明を聞いて、うわあ、何かすごい人だなあと思ったのが記憶にあります。 つくっていく過程で、明るいところと暗いところをつくって奥行きを感じさせたり、説明的ではなくて全体として陰影が繰り返されたりすることによって広がりを感じたりとか、そういうのをつくろうという話になったと思うんですけれども、それは最初の建築をつくっている段階でもうそのイメージはあったんですか? 藤本 照明デザインをされている方の前で言うと失礼かもしれないですけれど、どうしても最初僕らの念頭にあるのは、やっぱり日中の自然光の中でどういうふうに見えてくるかというところなんですよね。 照明の上にちょっとブルーの部分が見えていますけれど、あそこはトップライトになってるんです。 壁を白くしているので、トップライトから入ってきた光がある壁に当たってそれが次の壁に当たって反射して、光をどんどん奥のほうに持っていってくれる。それによって、同じ白い壁でも色合いが非常に変わるんですよね。もともとの構想としてはそういうようなことを考えていました。 そして、いざ戸恒さんに照明をお願いしようとしたときに、僕も最初どうしていいかわからず、どうすればいいでしょうかねえという感じでした(笑)。 多分戸恒さんも、どうすればいいのかなあという感じだったと思います。 結構いろいろやり合ったんですよね。 さっき他のプロジェクトでスケッチがちょっと出てきましたけれど、戸恒さんは必ずスケッチを描いて持ってきてくれるんですよ。 何か違う、何か違うみたいな感じでやっている中で、照明の独特のにじみぐあいで、建築の持っている表情がふっとわき上がってくるような、そんな方向にだんだんなっていったような記憶がありますね。 別に自然光のまねをするわけじゃなく、照明に切りかわった瞬間に違う表情が浮き上がってくる。 戸恒 写真では家具が入っていたりして普通にきれいだなと思ってくれていると思うんですが、最初呼ばれて模型見せていただいたときは、白い四角い壁と、床はフローリングで、天井はルーバーです、というだけだったんですよね。 普通の天井でしたら穴あけてダウンライトをつければいろいろできるんですけれども、ルーバーだと後ろがスカスカなのでスポットライトをつけるぐらいしか思いつかない。そして、とにかく真っ白い箱がたくさんあるんですよ。 普通の建築物だったら、大体人の動線とか考えていくと、正面にばーんと壁があって、あたかも照らしてちょうだいと言っているようなんですね。 それを解いていけば結構形になっていくんですよ。 でも藤本さんそういうのではないですよね。 とにかく果てしなく同じような、金太郎あめみたいな空間で、でも何となく同じじゃないのが続いていく。 それで、まあとにかく困ったのは覚えていて、とりあえず藤本さんにいつも聞くんですよね。 「どんなイメージなんですか」と言ったら、「わからないんだよね。イメージないんだよ」と言われる。非常に難しいですよね。 こういうふうに外光が入ってくるよとか、いろいろご説明いただいたりして一生懸命考えるのが僕らの仕事なんです。 どういうことをやりたいのかなあと思いながら... ![]() ここは先程の多目的ホールですね。 ここが一番困りました。五つも壁に囲まれています。 多分全部照らせば明るくなるだろうなとか思いつくんですけれども、同時に全部照らされているという状態が自然なのかと考えるわけですよね。 そうすると、スポットライトの位置を見ていただければわかるんですけれども、全体の半分だけ照らしていたりする。 今正面の壁は照らされていて、左も照らされていますけれど、その右に見えるのは照らしてない。 でも実は太陽の光が当たったりとか、空間の光というのがリバウンドしてそこを染めたりしています。 だけれどほかの二つに比べてちょっと光が落ちているとか、そういうトーンの違いでつくっていこうとしました。 これだけ白い箱があるとそういう世界をつくっていかないとなかなかその良さも出てこないだろうと思ったのは覚えています。 今スケッチの話が出たんですが、ちょっと持ってきました。
照明手法スキームAと書いてあります。 イメージとしては、とにかく下のほうに光を当てて、上に行くほどちょっと暗くなっていくという表現をしようという案だったかと思います。 次にこれが不採用になったB案なんですが、いっぱいある白い箱の外側を縁取っていこうということで、足元にずうっとライン照明を入れていって照らそうというものです。 非常に演出性は高い案だったと思います。 C案はもう少しメルヘンチックな感じで、扉が白い箱にちょこちょこあったのを光で埋め込んでいくという案です。 同じ人間が3案考えるのは結構つらいんですよね。やっぱり自分はどれが良いって思いますからね。 でも一応いろいろと考えつく方法を、実はこれ以外にもたくさん落書き持っていっています。 こういった中で進めているわけですよね。 これをお渡ししたときに、「うーん、よくわからないので、もう一回考えます」と言われたのをよく覚えているんですが、どうでした? このときは... 藤本 いや、あんまり覚えてなかったですね、このスケッチは(笑)。怒らないでほしいんですけれど。 戸恒 いや、いや。 藤本 確かにこのB案は何か微妙に記憶にあって、これは嫌だなあと思ったんですよね。 多分さっきのお話もそうだと思うんですけれど、何か僕は決めつけたくないところがあるんですよね。 建築ってやっぱり最後は決めなきゃいけないじゃないですか。 ですが、ここはこういう場所ですよとか、ここはこう見てくださいというふうにあんまり押しつけたくないんですよね。 むしろ中で過ごしている人とか、入ってきた人が自分で発見できたり、ここはこんなふうな場所なんじゃないかなあとかって想像を膨らましたりしていくようなものに出来ればしたいなあと思っているんですね。 ですから、同じ箱がたくさんあるというのは結構乱暴に見えると思うんですけれども、実際はその間の抑揚なんかを非常に綿密にスタディしていく中で、何となくこういう場所だけれど、でもこういう場所ですって無理やり主張しているのでもない緩さというんでしょうかね、 そんなようなつくり方をずっとしていたと思うんですよね。 そうすると、このB案みたいなあたかも箱がたくさん並んでいて、それを自分が主張したいんだという雰囲気に当時、戸惑いがあったんですよね。 戸恒 今でもありますよね。 藤本 今ででもそうですね。 A案のスケッチを最終案というふうにおっしゃっていましたけれど、多分僕これでもちょっと何かひっかかっていたところがあったような気がしています。 というのは、何となく満遍なく光っているじゃないですか。 それも何かなあと思ったんです。 決めつけたくないんだけれど、かといって満遍なく光らせると、ある意味すごくニュートラルになりますよね。 そういうふうに頭で理解していても、それが本当の意味でニュートラルなのかよくわからなくて。最後はこの空間の持っている抑揚というのを、照明が少し助けてあげるような雰囲気になったと思うんですよね。 そういうのが、今思うともう一歩踏み込んだニュートラルというんでしょうか、自然さというか、何かそんなものを模索していたような気がします。 この時が、照明デザイナーお仕事をするのも初めてだったんですよね。 戸恒 そうですね。 藤本 もう全然わからなかったですね。 絵でかいていただくんですが、実際どうなるのかが全くわからなくて、結構戸恒さんにはご迷惑を掛けました。わからないから、もうちょっと何か違う表現をとか、いろいろお願いしていましたよね。 戸恒 そうですね。でも、それって今日のテーマ「光育(ひかりいく)」じゃないですけれど、多分僕みたいな人間とやってみたときに、照明デザイナーの持っているいろんな技術を初めてお知りになって考えることがある。 「光育(ひかりいく)」の「育」という字をどういうふうにとらえるかにもよりますけれども、一つは「学ぶ」ととらえれば、藤本さんは学ばれた。 実は私も藤本さんに会う前というのは、最初にお見せしたスライドのように、やっぱり間接照明とかいわゆる照明デザインの記号みたいなものを求められていて、僕もそうすれば照明デザインをしたという事になるというのがちょっとどこかにありました。 でも、藤本さんにそれを何となく否定されたことによってすごく考えました。 それで改めて、自分で自分のことを考えて光を考えました。 それも逆の意味で「光育(ひかりいく)」になっていくということもあるなあと思います。 今回「光育(ひかりいく)」というテーマでお願いされたんですけれど、すごく難しいテーマと思いました。 例えばこういう会話のキャッチボールをしていくということも一つの「光育(ひかりいく)」なのかなあと考えているんですね。 ![]() これは天井の風景ですね。 照明器具と自然光がミックスされた中間的な風景で非常にきれいでした。 最終的な案としては、多くがライティングレールでスポットライトを吊っています。 ねらう壁に対して引きをとってライティングレールをつけているんですね。 藤本さんのルーバーはランダムに並んでいるんだけれど、全部同じ方向に強制的に敷かれている。 そうすると、ほとんどの壁に対して斜めにスリットがあいているんですね。 壁を照らすのに斜め方向に走っていると非常に難しいです。 詳しく聞いていくと、裏には梁も入っているし、何か大変なことを言ってらっしゃると思いました。 そのルーバーのピッチが100ミリだったんですね。 当然、照明デザイナーはこういう2層吹き抜けの空間で照度をとろうと思うと、150ミリくらいの径の割と大きな照明器具を使用するんです。 でも「藤本さん、これ照明がつくところあけてね」と言ったら、「いや、それはできない」とか言われて(笑)。 できないじゃないよと思いましたね。 こっちもムキになって、もうカタログを引っくり返して探して、97ミリという径の照明器具を見つけたんですね。奇跡的にあったんです。 それで実際器具を取り寄せて、模型をつくって、手が入ることを確認して進めていきました。 最終的には壁から引きの寸法をすべて図面に書き込みました。 壁に対してルーバーの向きが全部違うものですから、引きの寸法も変えていかないと光がちゃんときれいに当たるピッチが出てこないんですね。 一面一面をこうやって全部解いて、実は非常に苦労してやっています。 壁を照らす照明器具と局所的にテーブルの上に光を落とす照明器具とで当然光の配光が違います。 器具が違うと当然器具の高さも違うので、最終的に4通りの高さのライティングレールの位置を設定しました。 図面ではAという深さ、Bという深さで色分けしています。 藤本さんは、きれいにつくってくれたって簡単に言うんですが、何でこれをお見せしたかというと、私はあんまりこれ見よがし的なデザインって好きじゃなくて、演出はしますけれども、あたかもそれが自然にそうだよねと思わせる程度にしたいんですね。
裏を返せば何をやっているのかよく伝わらないということもよくあるんですけれど、そういうことを知っていただくために、この場を借りてちょっと生臭いものをお見せしました。これは、外から見たところです。 今度は壁がシルエットになって、すき間から光が差し込んできて立体を出しているという風景です。非常にきれいでしたね。 これも、たまたまなっているんじゃないんですね。 漏れている光というのがきれいに出てくるようにすき間があいている隣の壁は照らすとか、実はちゃんとルールをつけてやっています。 |