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Mariotトークセッション


 【ルーセントアベニュー-1:オファー 〜 構想  】

近森 近森です。宜しくお願い致します。
今お話しいただいたようにいろいろなすばらしいアート作品がある中で、僕は地下道の空間をデザインしてほしいというお話をいただきました。

最初のオーダーとしては壁画をデザインしてほしいという形で言われたんです。
しかし、僕がふだんやっている作品は、割と映像を使ったインスタレーションとか空間演出みたいなことが多いので、「壁画ですか?」という感じでした。
そうはいっても条件を伺ってみると290メートルというすごく長い空間を使ったアートワークであるということと、ちょうどこのお話をいただいた1年ぐらい前に福音館書店という出版社から何冊か絵本を出したこともあって、もしかしたらそういう絵本的な展開も面白いのではないかと思いました。
できるかどうかわからないけれどもとりあえず興味があったのでお話を伺ってみましょうというところから僕はスタートしました。

聞いてみると、新しく建つオフィスビルと駅の間をつなぐ新しい名古屋の地下道だということだったので、まずその場所性から考えていきました。
やはりオフィスという日常と電車に乗ってうちに帰るという日常、その日常と日常の間をつなぐ空間だと思いました。
あそこを通る人は基本的には毎日通勤する人がほとんどだというお話だったので、せっかくそういう日常と日常をつなぐ間に何かをつくるのであればちょっとでも日常の中にスパイスになるようなものになったらいいのかなと。
パラレルトンネルみたいなちょっと非日常化したようなものにしようということ、そこで道草をするような感覚、あるいはちょっと小旅行に出かけるようなそういう感覚を、日常の往復の中に味わっていただけたらいいのかなということで提案させていただきました。


 【ルーセントアベニュー-2:物語の集積  】

近森 とにかく長い空間だったので、どういう形でその長い空間をつくっていったらいいかを考えたときに思いついたのが絵巻物だったんですね。
つまり絵巻物というのは長いロール状になっているものを伸ばしていく。
例えば『竹取物語』だとか『源氏物語』、ある物語の場面、場面がどんどんつながっていってストーリーが展開していく構成になっていると思います。
つまり人が地下道の空間の中を通り抜けていくことによって何か物語が展開していくような空間をつくれたらおもしろいと考えました。

そして、とにかくストーリー、物語をつくっていくに当たってのテーマは「知らない世界に出かけてみよう」みたいな、そういう形でつくりたいなと思いました。
そういう異世界に冒険していく物語は、例えば『不思議の国のアリス』や『ガリバー旅行記』、『ニルスの不思議な旅』とかいろいろあると思うんですが、そういうものをまずいっぱい復習してみて思い当たったのがこの『不思議の国のアリス』です。
物語の冒頭でウサギさんが出てきて、それがふだんの生活の中から知らない世界にいざなう役を担っているということです。
これはすごくいい、重要なモチーフなんじゃないかなと気づきました。
とにかく、この空間の中は至るところにいろいろな物語の中からアイデアを抽出して、冒険物語のある種の形式を少しつくってみようと考えました。

しかし、あまり僕らの生活の中でウサギはそれほど日常的な動物ではないと思ったんです。
それで何かいい動物はないかと思ったときに、猫がすごくいいモチーフというかキャラクターだと思ったんです。
つまり僕らの町の日常にも生息している動物で、さらにそれが森やいろいろな世界、自然の中に入っていっても違和感がないし、観客をいざなうナビゲーターとして猫を設定するとすごく物語がスムーズに進むんじゃないかと考えました。

ご覧いただいた方は気づかれたと思いますが、ゾーンを渡り歩いていくナビゲーターとしていろいろなところに猫がいます。

あの長い長い290メートルには店舗が1戸も入っていないんですね。
もう本当に基本的には何もしなければ何もない空間という、そういう長い空間の中にどういうふうに構成していったらいいだろうかということでまず図面をよくよく見て考えました。
一つポイントとしてあったのは階段です。
真ん中のポケット広場にもあるので両端も入れていくと6カ所あるんですね。
そこで物語の幕合いになるのではないかと考えまして、さらに階段で区切られていくゾーンを、各間を二つずつ設けることで全部で九つぐらいのシーンがつくれそうだなと思い至ったんですね。


 【ルーセントアベニュー-3:色  】

近森 最初のアート計画のオーダーとして地下道はジメっとして暗くなりがちなのでカラフルに演出してほしいというお話があったので、9つのゾーンにまず色を割振ってみました。

多分照明や色のことに興味のある方はよくわかると思いますけれども、色は適当に並べるよりも色環のグラデーションで並べていくとすごくきれいに見えてきます。
そうすると本当は、ゾーン4の赤い部分が紫とオレンジの間に入るのが多分正しいと思うんですが、何か1カ所物語として破綻を来すというか、ちょっと1カ所ひねってやろうということで赤が1カ所だけずれた形になっています。

次に、僕らがよく使っているモノクロのいろいろな動物のシルエットだとか影というものをいかにしてこのカラフルな空間の中に展開させていくか考えました。
もちろん壁画と考えれば色を塗ってしまうという考え方もあるにはあったんですが、どうもそれは何か僕たちがやる仕事ではないという感じがしていました。
僕らはいつも、光で空間をつくることによって影ができ上がるという、そういう作品をつくっているので、どうせ僕らがやるのだったら空間を何とか光で構成していくということをやっていきたいと思いました。
そうであればこの色を光でつくったほうがすごく豊かな空間ができ上がるのではないかということで、先につくった色のバランスを何とか光に置きかえたいと考えたんです。

いかにして光の色を決めていったかというのは後ほど澤田さんとお話しできるかと思いますが、次に今のように世界を区切っていき、色を割振っていった中で壁画として終わらないようにするために、何とか空間的に展開するようなアイデアを練っていきました。


 【ルーセントアベニュー-4:物語の踏襲  】

近森 いろいろな物語を踏襲していくというのが一つテーマとしてあったので、まず物語の入り口は森だろうと思いました。

例えば『赤ずきんちゃん』では赤ずきんちゃんがふだんの生活から森を抜けておばあちゃんのうちに行くときに、初めてこの赤ずきんちゃんが物語の世界に入っていくわけです。
そういうものがどこか始まりには必要だろうと、異世界のゲートとして壁や天井が木で囲まれた空間をつくりたいと思いました。

それからもう一つやってみたいと思ったのは、ご覧になった方はよくわかると思いますけれども、もろにこういうダーンと大きい動物を一つ描いてやろうと。
その下を、ちょっと怖いかもしれないけれどもくぐっていくみたいなことをやってみたいなと。
目からびゃあーっと光が出ているとおもしろいかなと。

例えば『不思議の国のアリス』でもアリスが大きくなってしまって部屋から出られなくなってしまったりとか、逆に小さくなって扉が開けられないとか、『ガリバー旅行記』も最初に小人の国に着いて、それから巨人の国に着いて今度は自分のスケールが小さくなってしまうことがあったりとか。
そういう形で、何か特別なものを描かずともスケール感を変化させてあげることでこの空間が異世界に変化するんじゃないか、ということをアイデアとして取り入れました。


澤田 ちょっと補足しますと、この猫のところは一番もめました。色が赤なんですよね。

近森 そうですね。

澤田 後で説明しますけれども、いろいろモックアップ実験とかやったんですよ。
お施主さんが一番心配していて、心配しているところに真っ赤にばっと点灯するでしょう。
そうすると電気JVとか電気工事の方たちが「うわっ、気持ち悪い」とみんな言うんですよ。
「そういうことを言うな」とか後で怒ったりしたんですけど、最終的にできた。
伊豆さん、どうでしたか、お施主さんたちの心配はどういうふうに解決されていったのですか。
近森さんがいま見せてくれていたスケッチは、絵としては全部怖いですよね。


伊豆 そう言われてみればそうですね。
実際、近森さんの案が出てきたときは、本当に実現するのかちょっと心配でしたね。
どうなるかわからないという感じがしましたので。
ただ、今回はよく受け入れてもらえたなというのが本音です。


近森 本当にこれは一番物議を醸し出した空間だったんです。
もう一つ、地下道というのは行きと帰りというのが必ずあって、つまりどちらがスタート地点かはなかなか決められないんですね。
それでやはり真ん中辺にとにかく山場を持ってくることで、行きでも帰りでも何か一つ盛り上がっていけるクライマックスをつくれたらいいのかなと思ったのです。
それで一番真ん中のシーン、ここは外光も入ってくるし、ポケット広場がとにかく一つテンションになるだろうということで、ここはもうガーっと明るい空間を一つつくってやろうと考えました。
つまり真ん中に対して徐々に盛り上がっていくことを両方からアプローチしていくような形で考えました。

その盛り上がりとしては、徐々に歩いてきてぱっと開けるような空間がつくれたらおもしろいなと思いました。
『ニルスの不思議な旅』というアニメーション番組があったのですが、これも子供が小さくなってしまって、ガチョウに乗っているニルスがガンの群れと旅をしていくという物語です。
ここもそういう鳥の群れの中に自分たち、つまり観客というか通行人の人たちが紛れ込んでしまうような、何かふわっとした空間に入ってしまう、そういうことができたらおもしろいなと思ったんですね。
空の上を歩いているような形にできたらいいなと思いました。

空と来たらやはり海だろうということで、今度は空から海にザブンと入っていくような場面をつくりました。
そして海面から光が差し込んでくるようなシーンができたらおもしろいなと思ったんですね。


澤田 これも見せられた瞬間に無理だ、スモーク(煙)をたかないとこんな光は出ないとか言いつつも、何かそういうふうに大人になってアートを否定している自分がちょっと悔しかったりしましたね。

近森 最終的にそういういろいろなシーンを組み合わせて一つの物語を構成するような形でパーツの中に落とし込んでいき、実現したのが今回の作品です。

 【ルーセントアベニュー-5:アートと機能の融合  】

近森 このスライドは色とかそういう話が出る前に最初に描いたアイディアスケッチです。
地下道という空間に対して何ができるのかなと考えていたときのものです。

とにかく空間的に展開したいというのが一つテーマとしてあったので、最初は照明が横から下から至るところから出ているようなイメージでした。
さらにこの影絵が光によって照らし出され、照明にいろいろな動物や虫が寄ってきていたりとか、照明とグラフィックが関係し合えるようなことができないかなということを最初は考えたんですね。

つまり、光によって照らし出されているイラストレーション、影絵という様にしたかったというのがそもそものアイディアでした。


澤田 これはプロジェクターで絵が出ているのですか?

近森 そうではないですね。
本当はそれができたら一番よかったんですけれども、290メートルの空間にプロジェクターを何十個埋め込んでいったらいいんだろうという話になり、さすがに予算もそこまでは無理だということ、また実際映像機器の耐用年数がそんなに長いものではないので、メンテナンスのこと等を考えると公共空間にはさすがに難しいかなということで断念しました。
そこで、プロジェクターで映像を投影するような効果が照明を使ってできないだろうかと考えました。

さて、突然こういう絵ですけれども、これはオランダのスキポール空港にあるトイレの便器です。
物によってハエだったりクモだったりするんですけれども、こういうグラフィックが便器内にプリントされているんです。
これはジョークでもあり、こういうものがあることによってトイレがあまり汚れなくなるという機能でもあります。

あるいはもうちょっと高尚な話にするとウィーンのゼゼッションという芸術のホールがあります。
クリムトという画家が19世紀末にかかわってつくられた建築物です。
例えば入り口のところの柱が木のように模されてつくられていたり、あるいは門を形づくるトカゲがいたり、植木鉢を支えるようなカメがいたり。
そういうその場の機能と形といろいろなモチーフを結びつけて空間をつくっているという建物なんです。
この公共空間の地下道の中でもそういうことを是非やってみたいなと考えました。

実際、地下道空間を注意深く見ていただくと、コンセントの上にキーウィという鳥が乗っていたりとか、ポスターの上に猫がたたずんでいたり、SOSのボタンの上にリスがいたり、点検パネルの上にネズミがいたりします。
公共空間ですから絶対的に必要になってくる機能の部分とアートをいかにして関連づけていくかがもう一つ大きなテーマとしてありました。
それは当然照明とも大きく関わりがあって、単に照明は光を照らし出すためにあるというだけではなく、照明もアート空間の一要素として成立するような形でやっていきたいと思いました。

そういうことで僕がとにかくイラストレーションをばあーっと描いてポンと貼るということではなくて、つくっていく段階でかなり緻密な打ち合わせがあったり、図面を出してもらってそれに合わせて絵をうまく構成していきました。
建築家泣かせ、デザイナー泣かせ、照明デザイナー泣かせみたいなことをやっていったのが今回のアート計画でした。

澤田 現場から嫌われませんでした?

近森 多分嫌われたと思います(笑)
ミリ単位で図面の細かい位置を出してくれということをお願いしたりしていたので、かなり大変だったと思います。
しかし、そういう緻密なコラボレーションができたからこそ今回ああいうことができたのかなと僕は思っているんです。

澤田さんのほうから細かい話をお願いします。