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Mariotトークセッション


小林:展望室のトイレが成り立った経緯からお話しましょうか。
私はまず、ステラプレイスの商業施設のトイレを依頼されていて、臼井さんに最初にお会いしました。
その時の最後あたりに、「あのね...」って言って、この展望室のところを見せて下さって、「何か面白い考えある?」っておっしゃったのですね。
その時は、真ん中のコアの部分にトイレがあって、別に眺望という機能はなかったのです。
私が最初に「東京の感覚では38Fってそんなに高くないよなぁ」ってひそかに思っていたのです。
「そんなに高くはないのに何回も来てくださるかしら?」って。
たいていの展望室はだんだんと人が来なくなっちゃうので、それを考えたりすると、今はみんな「やろう!」っていっているけれど、大丈夫かなって心の中でちょっと心配でした。
それで、もしかしたらトイレっていうのは「来なくていいよ」って言っても来るところですし、非常に集客性のあるところと思うのですね。

また、商業施設のトイレの設計をやっていますと、話題性っていうものもあるのですね。
あそこにああいうトイレがあるから行こうよっていう。トイレで人が呼べる事もあるものですから、私はその時、「外を見ながら用が足せるトイレがあるといいですね」って臼井さんに申し上げたのです。
臼井さんは山に登られる方なので、「それは面白いね!」って即答でした。
普通そのように言ってくださる方はなかなか居ないと思うのですね。
なぜかといいますと、「高いところから小用をするという事は、失礼ではないか?」と余計なことをいっぱい考える人は普通たくさんいらっしゃるからです。
その中で、いいものはいい、面白いものは面白いって言ってくださった臼井さんが居たからこれは実現したのだと思います。

それからもう一つ話があって、最初は四つ角がある眺望の2点が眺望トイレになっていまして、男性女性が対称にありました。
そして「すすき野がいいかねぇ?それとも藻岩山を見ながらがいいかな?」なんていう話がありました。
しかし、こんな2箇所も取っていいのかなって実は思っていたのです。

ちょっと話が飛びますけれど、面白いのは、いろんな方と一緒に計画できたということです。私はトイレの立場ですけれども、ここの展望室の計画は、実は4人の女性が選ばれました。

富田:デザイナーとしてですか?

小林:はい。デザイナーといいますか、デザインをしていく上で、実際に手を動かす、企画をするというような感じです。

JR北海道の高井さん、それから日本設計の友田さん、それからアトリエ、フルヤさんっていうアートのコーディネーターをされている方、そしてトイレということで私。
その4人がどんな余所の分野にも食い込んでしゃべってもいいというルールだったのですよ。
だから、インテリアデザインでも「これちょっとこうした方がいいのじゃない?」とか、トイレも同じようなことを4人で言い合って、本当に言い合いながら、ものを作ったという経過がありました。

実はその2箇所のトイレというところに戻りますと、展望室で2箇所もトイレを作るというのはやはり普通でないのではないか?という意見が出ました。
私は鈍いので、あまり感じなかったのですが。
みなさんその時は、「2箇所というのは無いのじゃないの?」と言うのですね。
「そうかしら?」って最初は思いましたが「トイレは一ヵ所にしよう」と決めて、それから男性と女性どっちにするかという話がまたあったのですね。
昔から、実は高いところから用を足すと気持ちがいいという話を聞いていたものですから、私は男性の方に決まっていると思ったのです。

もう一つの下心がありまして、男性って実はトイレにあまり関心を持たないのです。
女性がトイレにこだわってどんどん競争し、なんだか非常に華美なトイレになっているのに、男性はそれを言うと沽券に関わると思っているのか何なのか、本当に僕達はあまり興味が無いからという感じになります。

例えば、男性の社長さんにトイレを作って下さいと依頼されて、ああこの社長さんはすごくトイレに興味があるのだと思っても。
「女性だけでいいですよ」っておっしゃって、最後に出来たものを見ていただけましたか?と聞いても「いや、女性のトイレだから見ていないよ」っておっしゃる。
そういうこともあり、男性にトイレの快適さを感じていただかないといけないのではないかと常々思っていたのです。

富田:なるほど。それは臼井さん、プランナーとしては、どんな感想をお持ちなのですか?


臼井:計画に関わった4人の女性の方は、私どもJRタワーに参加していただいたメンバーの中では、モーニング娘じゃなくイブニング娘と呼んでいましてね。
大変な結束力で、私どもはいつもタジタジでした。
トイレの位置の話では、4人の話の中で、特に小林さんは、「コアの中に女性用は納める」ということになりました。
なぜですかと聞きましたら、どうも女性はトイレの眺望がどんなに良くても、あまり外は見ないということで、自分の顔しか見ないから、眺望性は要らないと。
そのかわり鏡はたくさん付けた方がよいということでした。
もう少し「綺麗に見える鏡を入れようか?ほっそり見える鏡を入れようか?」なんていう話もありましたが、それはやめようということになりましたけど。


小林:やせて見える鏡です。

臼井:やせて見える鏡でしたか。それでも鏡はたくさん入っていますよね。
そういうことで、何といいますか、みなさん志のある方ばかりに恵まれて、大変楽しかったですね。


小林:トイレというのはたった一人になれる空間なのですよね。
例えばその展望室だと何人かで一緒に外を見ているわけですよね。
2人や3人で見ても、常に隣に人がいるわけですよね。

でもトイレだと一人になれる。一人で空間を見られるというメリハリが出るところなのかと思い、この隔て板を上まで付けて、「空間一人占め」というのをテーマにしたのですね。
その時富田さんともっと親しければ良かったのですが、ハタと思ったのですが、ガラスになっていると、夜は照明がどうなるのだろうと思いました。
自分の姿がガラスに映るのじゃない?と思い、だんだん恐ろしくなって、実験をしました。
こう立って見て、照明をどの辺から当てたらいいのか。夜は照明を前から当てたら外は見えないですし、外が見えてその自分の姿もジャマにならないような形にするにはどうしたらいいだろうって思って。


富田:結果的には良かったのじゃないでしょうかね。
トイレにアプローチする時、自分の姿がどこかで一瞬映るのですね。
それでドキッとする時はありますが、いざここに立って用を足すという時には、やはり夜、圧倒的な外の風景が目に入ってくるので、バランスとしては良かったのじゃないかと思います。

小林:良かったです。

臼井:今、小林さんから話のあった、隔て板(仕切り壁)の話なのですが、実は眺望を大事にしているにも関わらず、この仕切り壁を天井まで伸ばすというのは視界を邪魔するのではないかと僕は思ったのです。

ある時現場を見に行き、下地をずっと組み上げている状態を見て、そこの建設会社の所長さんを呼びまして、とにかく眺望を売り物にするトイレなのに仕切り壁を床から天井までずっと上げちゃうというのは視界をさえぎる。
男子用トイレはとにかく隣が見えなければいいのだからそんな上まで上げる必要は無いといいました。
小林さんは男子用トイレをよくわかっていないのではないかなんて言いまして、「切れ」って言ったのです。
もう肩の高さで十分、目の高さがあれば十分、と。
すると、現場の所長さんがあわてて小林さんに連絡したのですね。
小林さんはたまたま海外出張でその時はアムステルダムにいらっしゃったのです。
その時こちらはお昼過ぎで、アムステルダムは朝方の5時だったのですけれど、電話がかかってきましてね。「切っちゃダメ」だと。
その出張のスケジュールを途中で変更して、明日すぐ札幌に行くから、絶対切っちゃダメだっておっしゃるのですね。
それでその時すごいことだと感じました。
そんな予定を変更してまでして仕切り壁のためだけにアムステルダムから飛んで来てくれる。それだけで小林さんの思いを感じました。

それで戻ってこられた次の日にお会いまして、「この素晴らしい展望を一人占めできるっていうコンセプトだから、隣が邪魔になるのです。
どうしても仕切りが天井までいるのです。」と聞いて、なるほどと改めてまた感心しました。
そのような小林さんをはじめ、たくさんの志のある方に恵まれて、なんとかやれたプロジェクトだったと思っています。

小林:おかげさまで、展望室のトイレはすごく人気があるようで、マスコミにも多く取り上げられました。東京にいても、「札幌に行くと必ずあそこに寄っているから」「わざわざ、行ってきたよ」等、電話を下さる方もいました。

日本人って、真正面から自分のPRをするのが苦手なのですね、きっと。だから例えば駅ビル等の社長さんも、「うちに来てください」っていうのを、「トイレが綺麗になったから来てください」って、このように言うと、あんまり相手に押し付けがましくなくPRできるとおっしゃいまして、きっとJRタワーのトイレも、そういう効果があるのかなと思っています。
こちらは、子ども用のトイレです。
子どもはやはり、子どものスケールに合わせたトイレがあると、印象深く覚えていて、また来たいという話があったりします。

富田:上のサインは何ですか?下のブ−スとの関係が示されているのですか?

小林:はい。赤ちゃんのベッド、大人が使える手洗い、それから子どもの手洗い、小便器です。



場所が変わって、これはステラタウンの3F のトイレです。
手洗いっていうのはみんな壁にくっついているイメージですけれど、このトイレは水場の交流点みたいなのがよいと思いました。
ヨーロッパの街角には泉なんかがありますよね。
そういうところの水場をここではイメージしました。

富田:オーダーと既製品の境目というのはどういうところなのですか?

小林:あの手洗い機は既製品ですが、あとはオーダー品です。
水回りはけっこう後からメンテナンスや故障したときの修理のこととか、照明もあるかと思いますが、取替えとか、なかなかデザインが特化しにくいところで、そこをいつも悩みながらやっています。

話は変わりますが、お客様に毎年アンケートを取っています。
どこか印象深いトイレはありますか?と。
3月にステラタウンがオープンした時を記念して、1年目、2年目と取りました。
1回に200くらいのアンケートを取るのですね。
その中で一番人気なのが実はこの赤い手洗いのトイレなのです。
この赤がいいっておっしゃっていただきます。
何ていうか私は赤が良いって言われると、うれしいかもしれないのですが、なんかこう自分のデザインとしては、別のところの方が一生懸命に苦労した思いがあるものですから複雑です。
ただ、赤は人にとって元気で非常にインパクトがあるのだなって思っています。


富田:これは女子用ですか?

小林:女子用です。

富田:これと対をなす男子用トイレのカラーリングってどうなっているのですか?

小林:それはブルーを使ったりしていました。
ここは冬寒いので、下に温水器をつけています。


富田:臼井さん、他の場所としてはどうですか?

臼井:ご存知だと思いますが、札幌の南口駅前広場の交番です。



JRタワーが開業してまもなく、道警本部長と中央警察署長がお見えになって、駅前広場に交番をぜひ作りたいとおっしゃってきました。
まあ、北口の駅前広場にある交番だとか、その周辺にある交番を見ていますと、どうも我々が先ほど言いましたような駅前広場空間にはふさわしくないのではと思いまして、NO というお答えをずっとしていました。
しかし、最終的には当時角森さんという中央警察署長さんがおられて、その方なかなか豪快な方なのですが、「それだったら全部デザインはませるから好きなようにやっていいから、交番やらせてくれ」というお話になりました。
こんな楽しいお話は無いので、お引き受けしました。
建築雑誌、作品集を見ていてたまたま川人さんという方と出会って、面識も何も無かった方なのですけれど、その方にやっていただいきました。

富田:交番施設はどこまでなのですか?

臼井:全部です。

富田:これ全部ですか?

臼井:黒いところは、取調室なので見えないようになっています。
ここには女性の婦人警官がたくさん配属されていまして、いろいろ気づかいもあるようです。

ガラスがシールされたというところがありますけれど、今のところ警察の方に「どうですか?」と伺うと、大変良いけれど交番と思われていないようで、交番にしてはお客さんが少ない、と。
あ、お客さんという言い方はしないですね。

そろそろ定着してくるのではないかと思います。

富田:JRタワーと広場とその中にあって、交番をどう作るべきかというストーリーが絶対必要だということですね。

臼井:ええ。JRタワーと広場に呼応した交番と言うように考えています。

富田:それでは少し私が光の話をします。
実は、フリーランスになってようやく10年くらい経ちました。
その前は照明デザイン事務所に長くいました。

このJRタワーのプロジェクトがスタートしたのは自分の事務所を開いてからまだ2〜3年くらいの時だったのですね。
それでどういうわけか、臼井さんの方から声をかけていただき、コンペ形式でしたが、こちらから提案をさせていただいて功を奏しました。
神宮前の小さな事務所に直々に臼井さんが現れたときには、とてもびっくりしました。
そんなことからスタートして、夜景を作るというお手伝いしてきました。

日本でも有数の長い駅をどう見せていったらいいか。この建物は建築ではあるけれども、まさに都市の中での存在感というのは非常に強く、その中で水平性と垂直性、そういった軸の中でどう見せていったらいいか。
こういったものの光の序列、言わばヒエラルキーといったものをどう作っていくかというのを当初からいろいろこだわりながらやってきました。



最初のプレゼンテーションではとても抽象的な表現をしたのを覚えています。

「パリ空港の人々」という映画の中で男の子が空港を抜け出して、高台に上ってパリの街を見るのです。
その時にエッフェル塔を見て、まるで母親のようだという表現をしているのです。そんな存在感が出るようなJRタワーにしたいといいました。

最初、全体コンセプトの立案は行ったのですが、実施に関しては、大丸さんのところは直接的には携わっておりませんでした。
実は駅ビルって非常に大きな壁面であり、鉛直面いわゆる人の目に留まる面というというのをどのくらいの光の強さにしたらいいだろうか等いろいろありまして、少しやりとりをしながら光の計画をしていきました。

これは見上げているところになりますけれど、その水平性、いわば大丸の方から連続してくる水平性をどこでどう取っていくか。なるべく器具が目立たなくて、暖かいけれどもストイックでありたいとか反対言葉みたいなものをうまく使っていきながら、この都市の表情、夜の表情を作っていこうといろいろやっていました。

これはおそらくみなさんあまり見かけることが無いのかもしれないのですが、ホテル日航側の面ですね。
ホテルの入り口がありまして、その上が駐車場になっています。
駐車場の光というのは非常に機能的で、ややもすると冷たくなりがちですが、それがホテルのホスピタリティの強い上に出てきてしまう。
これは構造上どうしてもそうなってしまうのですが、どうしたら良いだろうかと色々考えて、何とかその光をフィルタリングするような、中の光を感じる前に手前の光によって、言ってみれば光をもって光を制する、そんな表情を作っていくことで何か工夫ができないかと計画を立ててきました。

それから、これは先ほど臼井さんのお話でもあったメインの軸線上の光ですね。これは見上げますとこんな風景です。

果たして『パリ空港の人々』の、子どものひと言のようになっているかどうか中々難しいですけれども、こういった都市スケールの中で水平の光、それから垂直の光、さらに、この都市の核をなすような光になっていけばいいなということで計画をしていきました。